「……女って奴は下らねぇことでぐだぐだ騒いでは、テメエ勝手な理論振りかざして得意になりやがる。 『私が悪いんでしょ』って言いながら、視線では男を責めるのさ。 キーキーうるせえ豚みたいな女どもが騒ぎ立ててまとわりつくのは、俺は真っ平なんだよ」 ベルナドットは口の端に引っ掛けた煙草を摘んで、ふぅ、と、紫煙を吐き出した。紙に巻かれた煙草の端が赤く熾っては、黒く、そして灰色に、萎えた男根のような「抜け殻」へと変わっていく。 ゆらりとくゆっては、煙が空に融けて見えなくなる。 「連中はまるで制圧する大群の鈍感さで人をなじりやがる。懇願しようが泣き喚こうが構わずに蹂躙し、強姦し、略奪するのさ。こっちの意向には洟も引っ掛けないくせに、手前の都合ばっかり持ち出してがなり立てると来たもんだ。 だから、俺は、自分がどんなに醜い面で唾をまき散らしてるか鏡で見てこいって言ったんだ」 「……そして、そのザマか」 「ああ。厄介だ。連中は本当に厄介だ」 黒ずんだ紫に変色した頬を押さえてベルナドットは不愉快そうに煙を吐き出す。 ぽ、と、輪を描いて吐き出された煙に──インテグラは苦笑にも似た笑みを浮かべた。 午後の三時に呼び出した傭兵隊長がインテグラの所に顔を出したのは、夕食後の紅茶を楽しんでいる頃だった。 聞けば、街の娼婦を口説いていつもまけてもらっていたはいいものの、ふと他の娼婦に目移りしたのがばれて、こっぴどくやられたらしい。 今までの分と慰謝料をと金目のものを身ぐるみ剥がれ、本部まで戻る足代もなく、郊外のヘルシング本部までとぼとぼと歩く羽目になって──まる一日かかったと、傭兵隊長はそう言い訳した。 「気が付いたらお天道サマは真上まで登ってやがるし、小銭の一枚までも綺麗さっぱり無くなってて。それだけじゃねぇ、気の利いたアクセサリーまで剥ぎ取られた、まったく惨めなありさまで目を覚ましちまったという訳さ。 女ってのはがめついねぇ。いままでの分はいままでの分で勘弁してくれりゃいいじゃねぇか。せめて足代くらいは残すもんだろ?」 いちいちちくちくと刺さる言葉に、さすがにインテグラが眉を顰める。 ヘルシング卿ともあろう人間がそこらの女共と一緒くたにされて気分がいい訳がない。 女という人種を纏めて詰るその視線に僅かな怒りすら感じて、インテグラは目の前の男を睨みつけた。 「どこかで電話でも借りて連絡の一本も入れればよかっただろう。 もし傭兵が必要な事態になっていたらどうするつもりだった?」 「旦那や嬢ちゃんがいるのにそんな状況には陥いらんだろうと思ってね。大概の任務の要は旦那や嬢ちゃんだ。俺達がいくら捨て駒だって、無駄に俺達を殺すような真似はしないだろうさ。 目が覚めて頭の上でドンパチやっちゃいなかったんだ。ああ、大丈夫だって思ったさ。 分かってるんだぜ。あんたがたが俺達に頼らなきゃならなくなるのは「どうしようもなくなった」時だ。例えば、この英国に吸血鬼の大群が押し寄せたような、「どうしようもない」時。そんな時に化物共からあんたを守ってバリケード代わりになって死ぬ為にいる──そうだろう?」 剣呑な視線がかち合う。 根元まで灰になった煙草を灰皿にねじるように押しつけると、最後の煙が、細く、すぅと立ち上った。 折角の紅茶の薫りを台無しにする煙を気にも留めず、インテグラはぬるくなった紅茶を口に運んだ。 「……詭弁だな。ベルナドット。お前の仕事はなんだ」 「人殺しだよ。少なくとも化物は想定しちゃいなかった」 「だが、お前はこの任務を受けた。そうだろう? お前のいない間も副長が連中を纏めていたようだが、緊張感に欠けることは私が見ても分かる」 「たまには気を抜かせてやってくれ」 「私が気を抜けばこの英国全土が吸血鬼共に乗っ取られる。少しは反省しろ」 「言われなくても後悔してるさ。折角のあんたのプライベートタイムを邪魔しちまったんだからな。なぁ、局長さん?」 「全くだ。32時間振りのティータイムだったのに。あと24時間は睡眠以外の時間を取れそうにない」 「……ご苦労なこって」 「お前達に緊張を強いていながら、私が緩んでいる訳にはいかないだろう。 もう、帰って休め。明日からはしっかり頼む」 するりと立ち上がって背を向けたインテグラの尻をじっと見つめて、ぽつりとベルナドットが呟く。 「……85ってとこか」 あてがわれた宿舎の個室に戻れば、欲望を解消しようとしたのに殴られるだけで終わった昨日の失態を思い出す。 インテグラにそこを責められなかっただけでも良しとしなければならないだろうが、どんな男でも股間を掴まれて殴られれば逃げようがないというものだ。間抜けにもいい所に喰らったせいで、みっともない格好で昼まで寝ていた。 腹立ち紛れに、目に残るインテグラの尻で抜こうとする。 どれほど男のマネをして取り繕おうと、結局は女だ。 むっちりとした柔らかい肉が体を覆い、隠し切れぬ曲線を所々に描いている。 例えばスラックスに包まれた太腿だとか。 ぴったりと布地を張り付かせた下腹から股間にかけて。 そういえばこの国では、股間の場所を隠せない為に男を欲情させるという理由から、法律で女にスカートを義務づけたことが二度もあった筈だ。 男を知らぬと嘯いていたが、あの女は自ら慰めたりはするのだろうか。 男を誘うような下着を付けて、淫らに身をくねらすことがあるのだろうか。 はち切れんばかりの肉体を夢想しては肉棒を擦る。絡み付くような柔らかな肉。シルクで覆われた女の肉。今まで抱いてきた女と変わらぬ浅ましくも欲深い肉体があのスーツの下に隠れているかと思うと、それだけで昂揚する。 熟して甘い香りを放つ肉を、まだ喰らった者はないという。 だが、処女だというだけで性の穢れを知らぬ訳ではないかも知れぬ。 あの淫靡に嗤う従僕が、主を主と思わぬ態度を取るのはいつものこと。 夜深く主の閨に押し入っては、女の秘肉を舐めしゃぶって、思いも寄らぬ罪深い方法で、主と肉の交わりを持っている事がないと言い切れるだろうか。 男の手に舌に啜り泣いては悶え狂うインテグラを、その剛直で処女を傷つけぬまま肛虐することも、あの従僕なら可能であろう。細い手で勃起した男の物を擦り上げ、舐め、扱き、女の悦びすら知らぬまま、雌に堕とされて尻でよがるインテグラを躾ていると、誰も思いはしないのか。 ──俺が奴なら、お行儀良くなるまで躾てやる。 むっちりとした柔肉を割り開き、レースに覆われた肉を嗅いで、そのプライドを剥ぎ取ってやろう。 気が狂うまで愛撫して、求めてよがる雌肉を、触れるだけで貫いてはやらないのだ。 途中で放置すれば肌を震わせて懇願するだろう。 雌の匂いを放つ愛液で下着を濡らして、雄の蹂躙を求めるだろう。 求めれば男の欲をその口の中に招き入れるだろう。 あの唇が丸く開いて太い男をうっとりと咥え込むのか。 唾液を垂らして官能のために、匂いと屈辱に耐えて男の陰部をしゃぶるのか。 唇で硬さと太さを思い知り、次に待つ地獄の悦楽を予感しては背徳の愉悦に背を震わせるのか。 ──全て、飲め。 命じれば不味いそれを顔をしかめて飲み下すだろうか。それとも唇を汚して溢れさせるだろうか。 口辱でも感じるふしだらな肉体は白濁で彩ってやろう。 褐色じみた肌の上に女が育てた欲情をぶちまけて、お高くとまったお綺麗な顔を汚してやろう。 ゆるく萎えた男を、それでも咥えて、次の快楽のために育てようとするだろうか。 饐えた匂いを放つ下着を剥ぎ取って、まだ蹂躙されぬ秘裂を舐めてやろう。 金色の陰毛の間から、肥大したクリトリスが飛びだして愛撫をねだるだろうか。赤く腫れ上がったそれに吸い付いて嬲れば、細い腰を震わせて、身も世もなく声を上げて蜜を吹き出すだろうか。 愛液を音を立てて啜り、はしたなく劣情に濡れた花びらをしっかりと教えてやろう。 ぬるぬると舌をうねらせるたびに膣口を絞り上げて喘ぐだろう。 蹂躙はできぬそこを柔らかい舌でぬめぬめと、たっぷり愛してやろう。男の肉を欲しがって口を開くそこを、舌でくじっては尻を振らせてやろう。 ──あ、い、いやぁ……! 羞恥と耐えかねる程の快楽に拒絶の声を上げればいい。それくらいでは離してやらぬ。淫らな主人にしっかりと床での優劣を教えてやらなければ。 尻の穴に指を入れてやると、嫌がるのだろうか、悦ぶのだろうか。どちらでもいい。己の為に押し開くだけだ。 ぐちぐちと音を立てて広げてやると、待ちかねて尻を振るのだろうか。 ──淫乱な女だ。処女だというのに、その堕落っぷりか。 言葉で穢して高ぶらせ、切なさに泣く秘裂に指でも這わせてやろう。くちゅくちゅと音を立てて嬲りながら、悶える股に肉棒を擦り付けて教えてやろう。この肉が、尻を犯して堕とすのだ、と。 高潔な処女の肛門を押し開いて貫いて犯し、堕落の肉欲の坩堝の中へと突き落とすのだと。 散々焦らして嬲った挙げ句、尻を犯せば獣のように喘ぐだろうか。 窄まったアナルを膣のように広げ、ピンク色の肉壁で、男を締めつけては声を上げて狂えばいい。 獣のように四つん這いにさせて存分に吼えさせてやる。快楽に痙攣する尻をずくずくと犯しては処女の花びらを嬲って悶えさせてやる。重力に引かれて重く揺れる乳房を、掴んでは指を立てて揉み上げてやる。クリトリスを挟み込んできつく摘み上げ、痛みと快楽を同時に感じる雌の体に仕立ててやろう。 調教されて従順になった雌の尻を突き上げて散々に突き上げて嬲ったら、思い切り中に放ってやる。二度でも三度でも、処女の尻を調教してアナルで悦ぶ卑猥な体に創り上げてやるのだ。 ──お願いしますと、言ってみろ! 手の中に迸った白濁を茫然と眺めていたベルナドットがふと我に返る。 今の今までインテグラの尻を犯していた感覚が──まるで現実のように手の中に残っている。 褐色の肌の合間でピンク色に開かれた性器の色の生々しさが──ぞくりと、背を震わせる。 「やべぇ……もう一発抜いとくか」 金色の髪が唾液で汚れた頬に張り付き、潤んだ目が欲情を訴えるその表情も。 雌に成り下がって普段の毅然とした表情を置き忘れたような淫靡な表情も。 淫らに限界を訴える、窮した女の息遣いも。 ありありと──深夜の狭い詰め所に、淫らな空気として残っている。 ベルナドットは目を閉じて汚れた手で肉棒を擦り立てた。 ぐちゅぐちゅと女の肉壷を模して指先が官能を追い立てる。 だが、まるで女を犯しているようなその感覚は──もう、遠かった。 狭い個室で自慰に興じる男が一人、そこにいるだけに過ぎない。 手を突いて腰を浮かし肉を擦りながら──、ベルナドットは爛れた妄想を追いかけた。 闇の中で、更に深い真の闇が、堕ちた男を嗤っている。 |